※本記事は2020年5月7日に公開した記事を再掲したものです。

前編「技術職からマーケターへーー全てのキャリアをマーケティングに活かすための考え方とは」はこちら

マーケティングに興味があるけれど、大学時代はマーケティング専攻ではなかったし、今現在開発職や営業職に就いているという方は多いですよね? そのような方でも、マーケティングを学ぶ意義は大いにあります。

今回は凸版印刷に技術職から入り、現在ONE COMPATHにて、営業企画部門、商品企画部門、電子チラシサービス「Shufoo!」事業を統括するマーケティング部ゼネラルマネージャーの森谷尚平さんに、開発や営業などマーケティングとは異なる職種でもマーケティングを学ぶ意義についてお話を伺いました。

森谷 尚平(もりや しょうへい):2008年、凸版印刷株式会社に入社し、店頭メディア「Samplin」や電子チラシサービス「Shufoo!」、 ふたり専用コミュニケーションアプリ「ふたりの」などコンシューマ向けメディア事業の企画開発に従事。 データマーケティングの経験を経て、現在はマーケティング部ゼネラルマネージャーとして、営業企画部門、商品企画部門、電子チラシサービス「Shufoo!」事業を統括している。

若手のエンジニアやセールスがマーケティングを学ぶ意義

福田:これまでさまざまな事業に関わっている中で、ご自身にとってマーケティングとはどういうものだと理解されていますか?

森谷氏マーケティングとは、事業活動全体だと思います。むしろマーケティングじゃないものを探す方が難しいのではないでしょうか。ものを作って、それを広げて、対価を得るための仕組みまで、全てを含めたものがマーケティング。会社で「何かを作りたい」と思ってから、思い付く活動全てがマーケティングだと思うんです。

福田:人によっては、マーケティングとエンジニアや営業などを分ける方もいますが、マーケティングはさまざまな業務に広く関わってるということですよね。

その中で例えば、若手のエンジニアがマーケティングを学ぶ意義はどういうものだと思いますか? 彼らが将来良いエンジニアになるために、マーケティングはどういう助けになるでしょうか?

森谷氏:レンガを積む人の話をご存知ですか? 自分が積んでいるレンガは、何を作るためのものか。ただ無意識に積んでいるのか、教会を作るために積んでいると意識するか。その違いが大きいと思います。

僕も開発にいたから分かるのですが、開発の方たちは、出来上がった教会に入ることが少ない、つまり完成したものに触れる機会が少ないんですよね。

でも自分の作ったものが最終的にどういった人に届いて、その人からどのような反応があるのか、自分がどのようなサービスに関っているのか。それを意識するだけで、その先のスキルやキャリアが変わってくると思います。

開発は、まずは手掛けているものの最終形を意識する。そして、マーケティングを学んだことによりそれが届く人を意識する。そこまで意識が広がっていくと、事業全体を意識しながら活動できるところまで辿り着けるのではないでしょうか。

福田:営業がマーケティングを学ぶ意義はどこにあると思われますか?

森谷氏:営業の場合、新しいものを作ってマーケティングを仕掛けていく中で、販売チャネル、セールスコピー、ターゲットへのアプローチをどうしていくのかを考えるまでが仕事の範囲だと考えています。営業はマーケティングの最終点、最終接点なので、営業にもマーケティングの要素は必須になっていくはずです。

福田:デジタルのマーケティングには、例えばコンバージョンという言葉で測れるデジタル的な側面があります。一方、Shufoo!のようなチラシでは、スーパーのチラシをリアルに探している人が使う、アナログ的で生活に直結している部分もあると思います。

数字で見るデジタルな部分と、リアルに人が関わっているアナログな部分を、どんな風に捉えてらっしゃいますか?

森谷氏:Shufoo!の場合、ビジネスモデルの課金体系の話をすると、従来は1人のユーザーが能動的にチラシを見たという「チラシPV」がタッチポイントでした。今年3月にはビジネスモデルを切り替え、これまでのデジタルや数字的なアプローチから、より人に寄り添うかたちのアプローチに変えました。

コンバージョンやPVなど数字上の見え方は変わらなくても、より人同士の気持ちが通うような指標にシフトしていきたくて、その指標を「エンゲージメントUU」と呼んでいます。具体的には、店舗の人がどれだけ「来てもらいたい」という気持ちを持って店舗の魅力を投稿してくれたのか、そしてその店舗の魅力を受け取りたいユーザーがどれだけ増えるのかに主眼点を置いていきたいと考えています。

影響を受けた本・人

福田:マーケティングに興味のある若手に向けて、マーケティングに関して影響を受けた本、森谷さんの考え方を形成してきた本があれば教えてください。

森谷氏:1つ目は、僕が大学生の頃に読んだ『経営に終わりはない』本田宗一郎さんと、藤沢武夫さんの本です。ものづくりと経営の視点がとても勉強になるので、大好きな本ですね。

2つ目は『未来を変えるためにほんとうに必要なこと 最善の道を見出す技術 POWER AND LOVE』アダム・カヘンの本です。

政府とNPOなど正解はAなのかBなのか答えが出ないことに対し、両方を包括するような柔軟性がある「愛(LOVE)」とそれを導く「力(POWER)」によって、解決策Cを持ってくる。そのアプローチが、イノベーションの本質に迫っていると思います。

3つ目は『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』。オイシックス・ラ・大地の奥谷孝司さんと岩井琢磨さんが書かれている本です。

元々僕自身がデジタルとリアルの融合に興味があったので共感性が高いことと、既に起こり始めているオムニチャネルの、その先の解になっていると思う本です。

4つ目は最近読んだ本で『マーケティングの本質 「心理」に関する「真理」』ADEXSYNRIラボの編集です。

行動経済学や心理学を使ってどうマーケティング解釈をしていくか、どうマーケティング戦略を立案するかについて、手法や説を学問と一緒に合わせて書いてくれている本。

マーケティングが人の感情や人の揺れにどう寄り添えるのかを考えたときに、このような行動経済学や心理学が、広告プロモーションやサービス開発まで含めて応用できるのではないかなと思います。

「ギークさ」と「社内ブランディング」を大切に。若手マーケターへのメッセージ

福田:将来マーケターを目指している人でも、実はマーケティングを専攻して学んでいた人は少ないんです。また、いつかはマーケティング職に就きたいけれど、今は開発や営業など別の業務に就いている方も多いと思います。

ですので、マーケティング以外の学部や部署から、少しずつマーケティングに入っていく森谷さんのキャリア形成のプロセスは、参考になる方も多いのではと思います。将来はマーケターとして活躍したいと考えている若手に、マーケターに必要な特性や性格や態度などがありましたら、メッセージとして教えてください。

森谷氏:前述した通り、さまざまな職種での経験もマーケティングに活きてくるはずです。そのうえで自分や周りのマーケターも含めて考えてみると、まずひとつの特性としてマーケターはギークな人が多いと思います。僕が考えるギークとは、何か違和感を見つけたときに掘る特性のこと。グロースハックの観点やインサイトも含めて「発見して掘る」ことが、とても大事な特性だと思います。

そしてもうひとつ、社内ブランディングも重要です。社内ブランディングとは、社内の人から自分がどう思われるのかを指します。

自分がこういう人だと、周りからキャラクター付けられるのはとても重要。なぜなら、自分がどんな人なのか、何ができる人なのかを知ってもらうことで、頼ってほしいときに頼ってもらえるからです。他人から頼られることで、自分の経験を活かすことができます。

社内のさまざまな方面から頼られることで自分の社内人脈も広がっていき、その過程での学びや気づきを通して、速いスピードで成長できると思います。

福田:マーケティング職以外からキャリアをスタートし、マーケティングに関わっていくリアルなお話を聞けて、若手の方にはとても参考になったのではないかと思います。ありがとうございました!

(聞き手:福田正義、執筆:小磯侑、編集:筒井智子、写真:多田優人)