知識を実際の問題解決に活用する力に変えるヒント「マーケティングのコミュニティ」を作った理由
マーケティングの基礎を教えているMERC Educationには1つの特徴がある。
それは、卒業生たちがコミュニティを形成しているという点である。
多くの学習塾や社会人向けのスクールにおいては「学んだら終わり!実践はご自身で」というところが多い。しかしながら、先日も書いた通りマーケティングというのは常に変化し続けている学問であるがゆえに一度学んだら終わりということにはならない。私も15年この業界にいるが、いまだに新しい手法が生み出されるし、その進化についていくのはとても苦労している(笑)
そこで、今回は、なぜ私がコミュニティを形成したいと考えてそれを仕組化したかという点を「知識を知恵に変える」という話を交えてすこしだけ書こうと思う。
目次
★インプットにあることをプラスする
飲み会に行くといろんなことを良く知っている物知りの人がいて「すごいなー」とその知識量に驚かされることがある。そういった人に共通するのが、とにかく読書量が多いという点と、Webニュースなどを毎日よくチェックしていて、自ら情報を能動的に取りに行っているという姿勢である。とにかくインプットの量が豊富なのである。
人が何か物事を考えたり、答えを出そうとする際に役立つのは「インプット」した内容である。『アイデアのつくり方』という本で有名なジェームス W.ヤングさんはその著書の中で「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」という風にも述べているが、基本的には人はインプットした内容を基にして次の思考を生み出している。
ところで、私も本を読むのは大変好きなのだが、総務省統計局による「日本の統計」2020年によると、直近の新刊書籍出版数は71,661点と出ていた。ピーク時は約82,000点ほどあったようだが少し下がってきているとはいえ、毎年7万点もの新刊が世の中に出ている中で、自分の読書量が年間100冊程度であることを考えると仮に全部新刊を読んだとしてもたったの0.14%程の本しか読んでいない計算になることに驚愕した。
このことからわかる通り、人はどれだけ知識量を増やそうとしても限界はあるし、そもそも知識の量を増やすことが、果たして良いアイデアを生み出したり、改善につながるヒントにどこまで寄与できるのか?という疑問がわいてくる。そんな疑問に答えてくれるのが『自分の頭で考える』という外山先生の本。「知識の量が多くなるに反比例して人間は考えなくなる。( こちらのインタビュー記事も参照:https://toyokeizai.net/articles/-/3546)」というなかなか興味深い内容ではあるのだが、「知識はもちろん大事だが、その上に新しい知識を生み出していくためには、知識だけでは不充分」と述べているこの著書において、学んだことを活かすという点においては知識の量だけではなく思考の量が重要であることを知ることができる。
★知識を実際の問題解決に活用する力を測る国際調査PISAから学ぶ『知識を知恵』に変えるヒント
ちょっと話がそれるのだが、PISAという義務教育修了段階(15歳)において、これまでに身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることを目的としたOECD(経済協力開発機構)が実施している国際学力調査(参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/1344324.htm)がある。PISA の試験は、知識や技能を習得しそれを再生できるかを問う従来型試験と異なり、実生活の様々な場面で直面する課題の解決に、学習した内容を活用できるかを問う試験で、知識の習得だけでなく、探究的な能力が求められる。
[PISA(OECD 生徒の学習到達度調査)における上位国・地域の教育制度に関する調査研究という報告書があるのだが、これによると、私たちが知識を知恵に変えるヒントが2つ述べられていると私は感じた。
以下はその内容からの抜粋。
- 教育方法については、教員による一方向的な授業展開だけでなく、教員と児童生徒、児童生徒同士の対話や学び合いを重視する取組や、ICT の積極的な活用等が見られる。
- 21 世紀型コンピテンシーの育成に向け、正課の教科学習以外の体験型、実践型の教育機会が提供されている。
つまり1つは「対話」であり、もう1つが「体験や実践の機会」である。
★対話と実践の機会「人に聞く」ということの重要性
私は2005年3月に定職に就くまで(とはいえ仕事をしたといっても派遣)、就職もせずに、24歳まで音楽に明け暮れるという人生を送ってきた。ビジネスの世界を全く知らなかった私が、15年後にまさかこのようにマーケティングの塾を主宰し、コンサルタントとして企業にブランド戦略の立案とかマーケティング戦略を教えるようになるとはまったくもって想像していなかった。
そんな私がビジネスの世界に入り、偶然にもいろいろなプロジェクトに参画して実践させてもらう機会をいただいたわけだが、当時を振り返ると、無知で右も左もわからない私を支えてくれたのは、まさに『対話』であった。
記憶がちょっとあいまいになってしまっているが、リスティング広告のサポートセンターで仕事をしていた2006年、広告主にコンサルティングする部門を作ろう!という動きがあった。その当時はリスティング広告は9割程度が代理店経由の売上で、自力で広告運用を行っている広告主はごくわずか、しかもリスティング広告に関するノウハウ本もWebの記事もまだほとんど出ていなかったのだが、そんな中でオーバーチュアの管理画面がこれまでとは全く違う思想に切り替わってしまったためにこれまでの運用ノウハウが通用しなくなったので広告主をコンサルティングして売上を上げるお手伝いをしなければならなくなったことに起因してコンサルティングチームを作るということになったのである。
システムがかなり変わったこともあって代理店チームも混乱していたのを記憶しているが、みんな手探りでどういう風に広告運用をするべきかということを試行錯誤していた時期に、「コンサルティングチームを作る」という触れ込みを行って広告主にも通知を出したのだが、管理画面の使い方やシステムの思想はわかるものの、サービスを提供している当の私たち自身も何が運用の正解か、どうやったら効果が出るのか全く分からないという状況だった。自分たち自身がサービスを提供する媒体社の立場だったので、世の中に成功事例を発信する立場がら誰かに聞いたりすることもできるはずもなく、どうすればいいのかもほとんど成功事例がない中で(しかもアドバイス業務とか提案書とかほぼ作ったことがないw)お客さんからは質問の問い合わせがくるという毎日を過ごしていたが、チーム全員がとにかく研究に励んでいたその時期において、もっともチームを助けたのが「事例の共有」だった。
自分が学んだこと、やったこと、作った資料をとにかく共有して、知識を1か所に集め、そしてその中で使えるものがあったら、自分の次のクライアントの実験に取り入れてみて、そしてそれをまたチームに還元するという繰り返しを毎日おこなっていく過程を通して学んだのは、「自分一人で学んだり経験したりするよりも、多くの人と思考し知識を共有するほうが圧倒的に自分たちを成長させ、しかも短期間にその成長を実感できる」ということであった。
そういった苦労した成果は、最終的に書籍という形で世に出たり、『このように運用すればよい』という運用方法として公式メディアで公開したり、社内のトレーニングや研修プログラムにも反映したり、社外の研修プログラムにも生かされたりした。さすがにそれから年月も経っているので、システムや運用ノウハウが進化した結果多くの人々が独自の運用テクニックを公開するに至っているが、たまに自分がその当時作ったパワーポイントの図解を全然会ったこともないような若い広告代理店の人が使っていたり、様々なメディアで目にしたりすると、その当時自分とそのチームが苦心してきた成果が世の中の何らかの知識としていまだに活用されているという嬉しさと、『知の共有』がいかに影響力があるのかと思い知るに至っている。
★まとめ
冒頭に、「飲み会に行くといろんなことを良く知っている物知りの人がいて「すごいなー」とその知識量に驚かされることがある。」という話をした。彼らの知識量は確かにすごいのだが、そこから学ぶべき点は、彼らは繰り返し話すことで、彼ら自身が自分の知識を自分自身の中に定着させているという点である。
一人で学ぶには限界がある。以下はその弊害。
- 知らず知らずのうちに自分の癖が出てしまう
- 得られる知識量には限界がある
- 自分の興味があることに偏ってしまう
- 1時間悩んだことが1分で解決することもある
マーケティングという学問領域は特に学ぶことが多いし、時代とともに常に進化している(特に最近はデジタルの進化とともにそのスピードが異常に速いw)。得なければならない知識の量も多い。これは一人では無理だと私は実感していて、だからこそ、多くの人から知識を共有してもらって自分の知識の偏りをなくしたいし、そして、人の経験から学ぶことで自分が経験する時間を短縮させたいと思っている。
2006年当時の徹夜したり、仕事おわりにチームでバーに行って、そのバーで議論の続きをしながら仕事なのか遊びなのかあいまいな中で成長を実感しまくっていたりしたそのチームを再現できれば、マーケターにとってとても楽しい集まりになるのではと考えている。そういう考えからMERC Educationというマーケティングのスクールにコミュニティを形成したわけだが、それは生徒のためでもあるが、実のところは私もマーケターの一人として成長するために自身も所属して多くの人と学びを共有していきたいと考えている。
わたしもただのマーケターの一人に過ぎないので、やっぱりいつまでも議論の中でワクワクしたいから。
マーケティング戦略を0から学べるスクール「MERC Education」を運営する株式会社MERCという会社の代表です。