※本記事は2020年7月6日に公開した記事を再掲したものです。

前編マーケティングに需要なのはコミュニケーションー社員それぞれが、お互いの成長を促しあう日清の環境はこちら

いつの時代も斬新で目を引く企画や広告が注目される日清食品。そんな日清食品では、マーケティングこそ会社の基礎をつくる、という考え方が浸透しているそうです。

前編では同社の白澤さんに、日清食品のマーケティングについての考え方や、マーケティングをする上で重要視されていることを教えていただきました。今回の後編では、普段の業務に活かせる視点の持ち方、また全ての社会人がマーケティング的思考を持つべき理由や重要性について伺いました。

白澤 勉(しらさわ つとむ)1997年日清食品入社。営業部門、宣伝部、経営戦略部、2011年よりマーケティング部に異動。その後、北アフリカ モロッコにてマーケティング担当として事業立ち上げを経て、2019年1月より現職。「カップヌードル」ブランド全体のマネージメントを行う。

複数の視点を埋め込むマーケティングを

福田:御社のカップヌードル専用フォークやキャベバンバンも面白いですよね。

白澤氏:キャベバンバン、よくご存知ですね。以前からずっと日清焼そばU.F.O.を調理するときに、湯切りをしてフタの裏についたキャベツ落とすために、フタを「パンパンパン」って指で弾いていたんです。それを得意先の前でやると「何をやってるんだ?」と聞かれるんですよ。

「全体のバランスを考えて具を入れているので、フタに付いたキャベツも全部入れなければ」と答えると、面白がっていただけて。これがプロモーションにならないかなと思って、子どもの工作道具で針金と輪ゴムでキャベツを落とす器具のプロトタイプを作ってみたんです。

福田:自作だったんですか。

白澤氏:自作です。UFOのフタに付いたままのキャベツって、捨てられる量が年間4トンくらいあるんですね。そこに着目して、キャベツを救うプロジェクトとマスコミにリリースしたら、当時ちょうど環境問題やフードロスの話があったので、いろいろなところから取材がきました。会社でごく当たり前に行われていたことが、外に見せるとプロモーションになった例です。

福田:面白いですよね。視点の捉え方の問題なんですね。

白澤氏:そうそう、見せ方ですね。その経験で学んだことは、世の中には潮流があるということです。マスコミにも世の中の潮流的に今取り上げたいネタがあるわけです。当時は世間的にフードロスの流れがあったので、キャベバンバンもフードロス的な観点でやってみようかとなりました。

うちの社長がよく「2〜3個文脈を埋め込もうよ」と言うんです。どれかに引っかかる可能性があるし、世の中に転がっている流れがありますから。今マスコミはどんなものを記事化にしたいのかを考えて、それを掴めば自然と取り上げてくれます。これも相手が何を欲しているのかを分析するのと同じですよね。

深掘りすることにとらわれず、広く学び、経験することを意識

福田:時事ネタに合わせてプロモーションする話が出てましたが、そういった時事ネタや時事的な感覚などの情報は、普段どこで仕入れて、どのように養ってらっしゃるんですか?

白澤氏:ネットと本、雑誌。あとはみんなとの会話ですね。マーケティング部には現在10グループあって、エッジの効いた企画も多いんですよ。アニメコンテンツなど全く知らないものもたくさんあって。

自分には意味が分からないし理解できないものもありますが、それを面白いと思っている人たちもいるわけです。なので、興味がない、分からないで終わらせず、彼らはなぜ面白がっているのか、どこが響いているのかなと必ず考えるようにしていますね。

福田:とにかく自分で経験したり体験してみたり、経験したりすることを重視しているんですね。

白澤氏:そうですね。リサーチの意味では、必ずしも深く知らなくてもいいと思っているんですよ。一つひとつ深く考える必要はなくて、たとえ浅くてもいいので興味を持つようにしてますね。

福田:それを感覚的に自分の中に取り入れているんですね。先ほど本が話題に出たので、おすすめの本を聞いてみたいですね。

白澤氏:私あんまりジャンルも問わず、図書館で全部借ります。予約をフルまで入れて毎週取りに入って。だから図書館が家の書庫なんですよ。

読む時間がなかなか無くて、そんなにたくさんは読めていませんが、ジャンルを問わず興味のあるものを読んでます。最近だと経営学の本が多いかな。この本が大好きで、これに動かされたってよりも、いろいろなジャンルを広くサッと読んで「こんな考え方もあるんだな」「こうなんだな」って捉えるタイプです。

福田:本の選び方や読み方もそうですが、今日の話の中で、白澤さんはいろいろなものに広く興味を持ち、とりあえず経験してみるスタンスだと思いました。

学生や若手社員がこれからキャリアを積み上げていく上で、特にどういうことを経験すれば良いのか、どんな風にキャリアを積み上げていけば良いのか、アドバイスはありますか?

白澤氏:私は専門的というより、どちらかというと広く色々な勉強をしてきたつもりです。一方、世間的にはスペシャリストの方がしっかりスキルを培っていると捉えられがちで、転職も含めて重宝されることも多いと思うんですよ。

なので、スキルや自分が好きなことがある人は、どんどん堀り下げてスペシャリストを目指した方が良いと思います。ただ、私はそうじゃない人の方が多いんじゃないかなと。一つの事掘り下げていくべきだと書かれている本を読んでも、「いや、自分じゃできないわ」「やろうと思っても三日坊主で終わるわ」みたいな人が大半だと思うんですよね。

実は私も昔そうだったんです。例えば鉄道好きで、鉄道のことなら何でも分かるようなものが、自分には全然なくて、「自分はなんで好きなものがないのかな」と思っていました。何を聞かれても、中途半端な答えしかできない人間だったんですね。

ただ、それはそれで特殊能力だと思うんです。なので昔の自分と同じような人たちにアドバイスするとしたら、「気負いするな。広くたとえ浅くでも興味を持って」と伝えたい。一つを深く掘り下げることだけがゴールじゃないし、そうなれなくても自分が活躍する場はきっとあるはずです。

いろいろなものに広く興味を持って、あまり興味を絞らずにやってみる、経験してみることが重要なのではと思います。ずっとそのままでも知識は広がるので、いろいろなものに気づけるようになると思います。自分もそうでしたから。

全ての社会人がマーケティング思考を持つことの重要性

福田:白澤さんの前に進んでいくポジティブさや、原動力ってどこからきているんですか?

白澤氏:その時々で自分が正しいと思うことや、やりたいことを持つようにしていたのはあります。「人生で最終的にこんなことをしたい」とか「世の中を変えたい」とか、そんな大きなことではなくて、自分の目の前に置かれた一つひとつの仕事に対して、10満点を取れるか、5点で終わるか、常に考えていたのもあるかもしれないですね。結果として5点で終わったとしても、残り5点は何がまずかったのか、ずっと考えてきました。

さらに自分がそこにいる意味みたいなことを、常に考えてもいました。例えば宣伝部のときだったら、自分がそこにいる意味は、自分の意思がどれだけこの広告の中に入っているか? になるわけです。

「俺がいなかったら、きっとこの一言は入らなかったな」とか「こういうトーンにはならなかったな」とか、検証はできないんですが、自分の中の納得感というか、自分の仕事の意味を見出さないと、この仕事やっていられないと思っていました

福田:今のお話は、企業の中でこれからどうしようと考えている人が、ものすごく勇気づけられるはずです。

白澤氏:どの部署でも同じだと思います。どこにいてもやれることはあるだろうし。だから最初の話に戻りますが、マーケティング的思考はどの部署でも活きると思うんです。

例えば普段の興味や考え方、捉え方や目標など、小さくても良いので持ち続けた方が仕事に意味が出て楽しくなると思うんですよ。大きなことをすることを考えるだけでなく、小さなものの積み上げも面白くなるので、それでも良いんじゃないかなって気はしますけどね。

福田:最後に、学生や新人のマーケター、そしてこれからマーケターを目指そうとする方に、メッセージをいただけますか?

白澤氏いろいろなことに興味や関心、疑問を持つことや、目の前の人をどうやって説得するかとか、周辺の近しい人を動かせることが、まずマーケティングの第一歩じゃないかなって思います。目の前の人を説得できない人間が、何千万いる消費者を説得できるわけないと思っているので。

マーケティングの仕事に対して自分がいる意味を考えると、目の前の人を説得できない人間がそこに魂を入れられるかどうか。それができないマーケターはちょっと厳しい気がしますよね。

だからあまりマーケターという言葉に囚われて勉強ばかりするだけでなく、心理的な部分――相手が何を考えているのか、この人をどう説得しようか、そういった部分を突き詰めることも、実は将来大きく飛躍する要素かなっていう気がします。

福田:ありがたいお言葉いただきました。今日はありがとうございました!

(聞き手、写真:福田正義、執筆:小磯侑、編集:筒井智子)