※本記事は2020年6月15日に公開した記事を再掲したものです。

現在、ユーザベースグループでAlphaDrive CEOとNewsPicks for Business 担当執行役員を務めている麻生要一さん。今までに2000件以上の新規事業に携わってきたそうです。

リクルートの新規事業コンテスト入賞で始まった起業家人生の麻生さんに、若手マーケターやマーケティングに興味がある若者へのメッセージ、また新規事業を立ち上げたい人たちへ送る、麻生さん著書『新規事業の実践論』についてお伺いしました。

麻生要一(あそう よういち):起業家・投資家・経営者 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO、株式会社ゲノムクリニック 代表取締役 共同経営責任者(経営・ファイナンス管掌)、株式会社UB Ventures ベンチャー・パートナー、株式会社ニューズピックス 執行役員 株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社長としてIT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げ、経営者としてゼロから150人規模まで事業を拡大後、ヘッドクオーターにおけるインキュベーション部門を統括。社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、新規事業統括エグゼクティブとして約1500の社内プロジェクト及び約300社のベンチャー企業・スタートアップ企業のインキュベーションを支援した経験を経て、自らフルリスクを取る起業家へと転身。

まずは困っている人のところへ行け

福田:若手のマーケターや大学生、これからマーケティングをやってみたいなと思っている人に向けて、どんな毎日を過ごせば良いか、視野が開けるようなアドバイスがあれば教えてください。

麻生氏:とにかく困っている人のところに行けば良いと思います。若手のビジネスパーソンは課題感が強く、講演でも「困っている人のところに行こう」という話をよくするんですが、意識高い大学生は意外と内にこもっている印象があります。

福田: 例えばボランティアとか。

麻生氏:ボランティアに行ったり、インドに行ってストリートチルドレンを見たり、刺激を受けることで意識レベルが上がって、この世界を変えたいとすごく真面目に考えている大学生も多いんですけどね。

それはそれで良いんですが、僕は就職した後も思い続けてほしいと考えているんです。自分の周囲にもたくさんの課題があるので、困っている人の話を聞いて、その人を助けたり頭を使ったりする活動をぜひ続けてほしい。でも就活対策で困っている人のところに行く人も多くて、彼らは内定をもらった瞬間に行かなくなるんですよ。

福田:それはゴールが就活になっているからですよね。

麻生氏:電車に乗って会議室に行き、合コンだけするような毎日を10年も続ければ、やりたいことがなくなるのは当然でしょう。

福田: 困っている人たちのナマの声に触れないと、感覚的に見えなくなったり、鈍感になったりしますからね。

麻生氏:やっぱり時間をとって意図的に活動する必要があります。新しい価値を創る人にとって、今はすごく良い時代だと思います。働き方改革やリモートワークも盛んだし、休日は休まなければいけないし、これほどまでに課題の現場に行きやすい時代は今までありませんでしたから。

もしリモートワークするなら、過疎地に行って業務時間中はオンラインで仕事をし、終わったら現地で困っている人と「何に困ってるんですか?」と話す時間を過ごせますよね。そういう形もありだと思います。

300冊のビジネス書を読み漁った普通の大学2年生

福田: 話題を少し変えますが、年間どれくらい本を読みますか?

麻生氏: 僕は多くないと思いますね。

福田: どこで情報を得ているんですか?

麻生氏:僕の場合、情報源は人なので参考にならないと思いますよ。本の著者が本にする前にその人から話を聞きますね。飲みに行ったり、会議や取材で会ったりするときの雑談が、1冊の本よりもセンシティブで重要な情報で溢れています。

僕はさまざまな大企業の新規事業開発支援やベンチャー投資をしているので、一般的に知られていない情報をたくさん知っています。だから本だけに情報源を頼っているわけではないんですね。

福田:本はともかく、人脈が大事なんですね。

麻生氏:ちなみに大学は経済学部で、20歳までバンドマンをやっていました。ビジネスに全く触れたことがなく、素敵な歌を作って100万枚のCDを売ることで世界を幸せにできると思っていたんです。

でも20歳のときに学生が主催するビジネスコンテストのようなものがあり、友人に「お前、暇そうだから」と連れていかれたんですよ。そこで見た光景と出会った人たち、そしてビジネスによって世界をより良くしていこうとする人たちの活動を見て、「お金儲けって汚いものではなく、本質的に世界を良くしていくものなんだな」と思えたんです。その瞬間、僕の夢は紅白歌合戦出場から、世界一の経営者になることに変わりました。

福田:人生が大きく変わったんですね。

麻生氏:その時点ではマーケティングという言葉も、ロジカルシンキングやビジネスとは何かも全くわからない状況でした。でもすごい起業家や投資家、コンサルタントの人たちを見てしまったので、とにかく「自分も彼らのようになりたい!」と思ってしまって。何から始めたら良いかわからなかったので、とりあえず何かしら学ぶしかないという思いで1年間で300冊のビジネス書を読みまくりました。

福田:いわゆる経営の本ですか?

麻生氏: 何を読んだら良いかわからなかったので、本屋に行ってビジネスっぽい本を片っ端から買って読んでいました。自己啓発っぽい本からロジカルシンキング、マーケティングから金融、経済、ファイナンス、ミクロ経済、マクロ経済など、1年間ひたすら本を読みました。300冊ぐらい読んで、さすがに「自分は何がわからないのかを知っている」状態にはなりましたね。それを「わかる状態」にするため、当時まだ少なかったインターンに応募しまくったんです。インターン先で働いてみて、300冊の中でわからなかったことが、少しずつわかるようになりました。

福田:究極のインプットとアウトプットをやったわけですよね。そのためにはある程度のインプット量が必要なのかなと思いました。

麻生氏:とにかく1回インプットした上でアウトプットすることを意識するのが大切なんだと思います。ビジネスパーソンはどのように学べば良いか? の答えは、本を読み、読んだ上でアウトプットすることだと思います。

NewsPicksの初代編集長である佐々木紀彦さんは、日米のエリートの差は「培ってきた教養の量」だと言っていました。スタンフォード大学に行くと、大量の本を読まされるそうです。しかも読むのはプラトンやアリストテレス、マルクスなどの古典です。

さすがに今から大量の古典を原文で読めるかというと、ちょっと難しいかもしれません。でも、ベースとなるような自分の考え方を身につけるためには、教養やリテラシーが重要で、それを形成するのはやはり本なのだと思います。重要なのは、自分が興味のある本を読むだけではだめだということです。その点、読書会や輪読などは良いだろうなと思います。自分が興味のない本を強制的に読むことになるので、それによって広がる知識・深まる教養があるはです。佐々木さんは自分の尊敬する人の本を、自分の興味の有無に関わらず読むと、たくさんの気づきがあると言っていました。

新規事業を立ち上げるすべての人へ『新規事業の実践論』

福田:最後に学生さんにおすすめする本を紹介いただければと思います。

麻生氏:僕の著書『新規事業の実践論』という本がめちゃくちゃ良い本なので(笑)、読んでいただければと思います。

福田:簡単に本の内容を要約していただけますか?

麻生氏:「企業内新規事業」という分野に特化した手法を解説する本です。世の中には新規事業や起業に関する本はたくさんありますが、新規事業や起業を企業内でやるにはどうすれば良いかを解説をした本が無かったので、その決定番になるよう書いたつもりです。

これは世界で僕しか書けない本だと自負しているんです。僕みたいに1000件以上の新規事業プランを見て、何十社も立ち上げた経験のある人はいないでしょう。数十社で何千件もの新規事業をやってみて、さすがに共通して起こる問題やその乗り越え方のパターンは見えてきたので、その貴重な経験から抽出した手法を解説する内容になっています。

福田:どのような読者層を想定されて書かれたんですか?

麻生氏:特に企業の中で新規事業を立ち上げなければいけない、もしくは立ち上げようと思っている人に最初に読んでほしいですね。

本の中で最も重要なポイントは、新規事業をやるときは仮説と顧客の回転を回すことだけに集中しなければならないということです。併せて「やってはいけない9つのこと」も解説しています。それが確認、競合事例、調査、会議、資料作成を、社内、上司、先輩、競合に対して行うことです。この9つは1つもやってはいけないんですが、みんなやってしまいがちですよね。

福田:本当にやりがちですよね。

麻生氏:上司と打ち合わせ・修正をしてから顧客に持っていくと、上手くいかないんですよ。顧客に仮説を持って行って修正しますが、その前にまた調査・会議をします。そのうえで上司や先輩、競合に持って行き、仮説を修正することになります。これでは全然PDCAの回転が回らず、いつまで経っても新規事業はできません。なぜ間違っているのか、どうすればできるのかをこの本で解説しています。

福田:なるほど、面白いですね。これから起業する若手や会社の中にいる人、それこそ本当は課題を感じているけど動けていない人が読むと面白いかもしれないですね。

麻生氏: マーケターの人にもぜひ読んでいただきたいと思います。マーケティングは、事業開発と同じ。自社の持つ、もしくは新たに開発するプロダクトは、どのように顧客課題を解決する価値を創るのか。その価値をつくり上げるプロセスは、まさに新規事業開発そのものですから。

福田:さきほどおっしゃっていた、コミュニケーションによって商品を育てていくような感覚ですかね。

麻生氏:そうですね。具体的にどういうことなのかは、本を読めばきっとわかるので、ぜひ読んでみてください。

福田:今日は貴重なお時間をありがとうございました!

(聞き手:福田正義、執筆:木村文哉、編集:筒井智子、写真:米沢朋英)