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ユーザーのほしいものではなく、必要なものを突き詰めることでイノベーションは生まれる

2023.03.29
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※本記事は2021年3月11日に公開した記事を再掲したものです。

Appleが1997年にスタートした「Think different」キャンペーンの日本法人責任者を務め、マクドナルドではCEOコミュニケーションの一新を担った河南順一氏(同志社ビジネススクール教授)は、2020年3月に著書『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』を上梓されました。

今回は本の内容を中心に、イノベーションとマーケティングとの関係性や、マーケティング初学者向けのオススメ本についてお話しいただきます。

「破壊的イノベーション」にマーケティングはどう関わるべきか?

福田:2020年3月にはご著書『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』を上梓されました。「破壊的イノベーション」と呼ばれるものに対し、マーケティングはどう関わっていくべきだとお考えですか?

河南順一氏(以下、河南氏):イノベーションについての本はたくさん出ていますし、いろいろな考え方や理論、フレームワークがあります。最近よく耳にする「デザイン思考」という考え方も、その中の1つです。

デザイン思考は、テクノロジーやスペックよりも、ユーザーにとって「あるべきもの」を突き詰めるところから入ります。

ただ、「ユーザーが求めるもの」には注意が必要です。例えばiMacはユーザーが求めたスペックを盛り込んだわけではありません。パソコンにはフロッピーディスクドライブやシリアルポートが付いているのが当たり前の時代でしたが、iMacには付いていませんでした。ユーザーが欲しいものではなく、ユーザーにとって必要なものを突き詰める、何がどうあるべきかをとことん追求するところから、イノベーションは生まれるのだと思います

よく「イノベーションを起こすこと」そのものが目的になっているケースを見かけますが、イノベーションは何かを突き詰める過程で生まれてくるもの。イノベーションを起こしたいと言ったからといって、誰もがイノベーションを起こせるわけではありません。アプローチの仕方としてはあるかもしれませんが、難しいですよね。

福田:少し話を変えて、ご著書について伺います。おそらくマーケティング初学者層をターゲットにされているかと思いますが、どんな風に読まれたいですか?

河南氏:やはり組織内で変革やイノベーションを求められている人たちには読んでいただきたいですね。この本を書いた理由は、大きく2つあります。

1つは、イノベーションについてどのように考えればいいのか、原点に返って考える必要があると思ったから。イノベーションやデザイン思考は、1997年にAppleが「Think different」を実施したときにやったこと、考えたことに通じる部分があると思うんですね。当時考えていたことを伝えることで、今、変革やイノベーションを求められている人たちにも、学べる点があるのではと考えました。

もう1つは、当時の話を何かヒントにしてもらえればという気持ちです。Appleのアプローチは尖っているというか、だいぶ弾けているので、会社によっては当てはまらないと受け止められてしまうかもしれませんが、発想の種はあるのではと思っているんですよ。

福田:なるほど。本の中には「広告は手段の一つ」と書かれていますよね。広告には、単に情報を提供する以上のコミュニケーションがあるという部分は、僕も深く共感しました。

最近の広告代理店――特にWEBの世界では広告の効果が可視化されたこともあり、KPIの達成ばかりが先行している傾向があると感じていて。売れることが重要であって、その商品やサービスをどう使ってもらえるかまで考えが至っていないように見えることが増えてきているのではと危惧しています。

河南氏:もちろん企業活動である以上、売れることは重要です。ただ、その考え方を超えて抜け出すためにはどうすればいいのかを考えるようにしておかないと、今回のコロナ禍で我々の考え方が根本から覆されたように、突発的に何か起きたときに対応できなくなるのではと考えています。

大事なのは、自分たちが何者なのか、自分が大事にしている価値はどこにあるのか、我々はどのような価値観で生きようとしているか――そういった原点に戻ってくることだと思うんですよね。私は精神世界の領域のことを書くと読者の皆さんに引かれてしまうかなと思ったんですが、角川の編集者の方が「いえ、とにかく思いっきり弾けてください!」とおっしゃってくださって、遠慮なく書かせてもらいました(笑)。

自分の枠組みを超え、異なる領域の点と点を結ぶ

福田:マーケターとしていろいろなクライアントのプロダクトを見ていると、ユーザーのニーズありきで考えているものは行き詰まってしまうというか、ちょっと面白くないと感じることがあるなって。本の中では「霊感」と表現されていましたが、霊感を受けて発想することで、ユーザーのインサイトに本当に刺さるものが生み出されていくのかなと思いました。

河南氏:スティーブ・ジョブズのアプローチは、Macintoshを開発したときからそうでしたね。自分たちの業界の枠組み内で発想するだけでは、もうイノベーションは起きないのだと思います。スティーブはもともとテクノロジーとリベラルアーツ(芸術)を融合するという考えを持っていました。Macintoshを開発する際も、自分たちが持つテクノロジーの枠組みを取り払うために、音楽家など全く異なる分野の人を入れてデザインに関する議論をすることもあって。

これからはいろいろなものが融合していく世界になる。だからユーザーのニーズを捉えるためペルソナを定義する際も、異なる世界の考え方からインスピレーションを得て取り入れないと、実態とはかけ離れたものになってしまうのではと思ったんです。

福田:この霊感を研ぎ澄ませていく、身につけていくためには何が必要だと思いますか?

河南氏:例えばウェアラブルカメラのGoProってありますよね。なぜGoProが衝撃をもって市場に受け入れられたんだと思いますか? 日本のカメラ業界は画素数や機能などのスペックありきなんですが、GoProが売っているのはエクスペリエンス、体験なんです。

自分がサーフィンしているところをカッコよく見せたいという創業者の気持ちからスタートしたプロダクトですが、それがスポーツだけでなく音楽の世界に広がり、ペットにGoProを付けて走らせる人も現れました。それによって製品の位置づけも拡がったと思うんです。

ユーザーの発想は自分が持っている枠組みとは全く異なるところまで拡がっていく――それがGoProの世界観の面白さだと思います。自分の作った製品にどのような広がりを持たせられるのかは、全く次元の違うところが結びつくか否かにかかっています。これを本の中で「霊感」と呼んでいます。

BABYMETALもGoProと同じく、アイドル系のポップなミュージックとヘビーメタルという、対局にある思いも寄らない2つが結びついた例です。我々が持っている枠組みがどのように取り払われるのか、自分が思ってもみなかったところがきっかけで結びつくという点では、BABYMETALも一つの面白い例だと思います。

福田:突拍子もない異なるもの同士を組み合わせたときに、壁が取り払われたと感じるのかもしれませんね。

河南氏:そうですね。人間は変化や既存の枠組みを超えたものに抵抗を示します。革新は、必ずしも新しいものから生まれるとは限りません。ハイテクやデジタルである必要もなく、ローテクでも芸術の領域にも数々の革新が生まれています。既存のもので私たちに馴染みが深いものが、組み合わせやプロセスの転換で全く異なったものを生み出すこともあります。もちろんうまくいかないこともありますし、うまくいく法則を発見するのは人間の究極の課題かもしれませんが。一方で、これまでとは違うものが、そのまま革新になるわけではありません。真の革新とは、そういう突拍子もないものが、人間を前進させてはじめて認識されるものかもしれません。

オススメの本

福田:最後に、マーケティングを学び始めたばかりの人向けにおすすめの本をご紹介いただけますか?

河南氏:分かりました。まず1冊目は『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術』です。2015年、マクドナルドの業績が厳しい状況下でさまざまな施策に取り組んでいたときにCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めておられた足立光さんの著書です。彼はもともとP&G出身でコンサル会社を経てマクドナルドに入った方で、マクドナルドにどのようにマーケティング施策を展開していったのかが書かれています。

2冊目はすでに絶版になっているので電子書籍で読んでいただきたいんですが、川上徹也さんの『仕事はストーリーで動かそう』です。コミュニケーションの話ですが、考え方としてはマーケティングにつながる内容です。マーケターとして広告を含めコミュニケーションを考える機会も多いので、ストーリーを考える際のポイントなど、私自身もこの本で学びました。

3冊目は本田哲也さんが書かれた『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』。この本もコミュニケーション寄りの内容ですが、より戦略的なものになっています。マーケターがコミュニケーションを考える際、SNSやマイクロインフルエンサーをどう活かすかなど、最近のトレンドにも触れられていて面白いと思います。

他にもイノベーションの文脈ではクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』がありますね。古典的な位置づけの本ですが、スティーブ・ジョブズも愛読していました。

福田:河南さんのご著書は、僕がやっている講座の生徒さんも自由に読めるよう、さっそくオフィスに置かせてもらっています。個人的に僕は熱狂的なMacファンなので、お話を伺えて本当に嬉しかったです。今日は長時間にわたってお話いただき、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
鈴木悠介
営業職、アフィリエイター、広告運用者を経て、現在はMERC Educationスタッフとして活動。上辺だけのマーケティングではなく、顧客の心に寄り添ったマーケティングができるよう日々奮闘中。

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